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Chopin et moi ③ ~ 2025年第19回ショパン国際ピアノコンクールを鑑賞して🎹 ~

  • 執筆者の写真: Marie
    Marie
  • 10月27日
  • 読了時間: 23分

更新日:10月30日

 第19回ショパン国際ピアノコンクールは、10月22日の入賞者コンサートをもって全日程を終え、無事に閉幕となりました😌

 以前の記事でもお伝えした通り、今回は大変ありがたいことに3次予選と本選(ファイナル)を現地で鑑賞することができました。レポートというほど大げさなものではありませんが、私なりに感じたことや特に印象的だった演奏、ワルシャワでの思い出について少しだけ、忘備録も兼ねて書き連ねていきたいと思います☺️


 前回の2021年大会でのワルシャワ滞在も、間違いなく人生でトップ10に入るほど素晴らしい経験でしたが、今回はそれをはるかに超える感動の連続で、本当に充実した旅となりました。

 ショパンコンクールはこれからも5年に一度の定期的な開催が続いていくはずですし(そうであってほしいという願いも込めて……✨)、5年後や10年後にもまたワルシャワを訪れて鑑賞できる日が来るかもしれません。けれども、学生としての学びを終え、演奏者としてショパンをより深く研究してきた今のタイミングで聴けた今回の大会は、私にとって特別で、唯一無二のものでした。今後はコンテスタントの皆さんとの年齢差は広がっていく一方ですし、恐らく、未来の私はまた違った聴き方をするのでしょう。

 

✈️ 10月14日:ワルシャワ到着!


 早朝にパリを出発し、お昼前にはワルシャワ・ショパン空港に到着しました。到着してまず目に入ったのは、お土産コーナーにずらりと並ぶショパンコンクールグッズ!🎁 空港からすでに “ショパン一色” で、一気にテンションが上がりました🤭


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 その後、真っ先に向かったのは空港のストリートピアノ

 期間中は大きなスクリーンに出場者の映像が映し出され、少し高い台の上にピアノが置かれています。出発ロビーの人通りの多い場所にあり、観光客やコンクール関係者、日本人の姿もちらほら。きっとこの時期、これ以上に緊張するストリートピアノは世界のどこにも存在しないはずです……笑

 とはいえ、「ここで弾けたら一生の思い出になる」と思い、前々から、ここでの演奏の様子を動画に収めることを決意していました。また、叶うならば最近パリで収録したばかりの『幻想ポロネーズ』を演奏できたらいいなと、出発前日もポーランド旅行の準備の合間に少しだけ練習していました。


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 ところが、いざ鍵盤を見てみると……Si♭が凹んでいる!?😭押しても音が出ない……。

「これは無理かも」と一瞬迷いましたが、周囲の方々が笑顔を向けて下さり、「せっかくなので弾くしかない!」という気持ちが勝ちました。

 出だしは問題なかったのですが、途中から、例のSi♭が頻出する箇所に突入し、大変なことに…...!しかも完全に一人であったため、盗難等が心配で演奏中もカバンやカメラをチラチラ確認してしまいました。なかなか集中出来なかったのですが、演奏者として一度弾き始めたからには最後まで弾き切りました。


 周りの心優しい方々からあたたかな拍手をいただいたり、演奏の途中には多くの人がこちらにスマホのカメラを向けていたので、ひょっとすると楽しんで聴いて下さっていたのかもしれません。しかし、自分としては全く納得がいかず、不完全燃焼で、穴があったら入りたいような気持ちでした🫠

 帰りの便でのリベンジを誓いましたが、ここから1週間、ピアノを練習できないかもしれないため、今回のワルシャワ空港でのピアノ演奏はもうダメかも……とこの時は思っていました😭(この時の映像はYouTubeにアップしています😅)


 その後、思うようにいかなかったストリートピアノでの苦い思い出に、到着早々完全に凹みながらも😥、予約していた滞在先へと向かい、一休みしました。

 滞在先のマンションの一室のお部屋はこんな感じでした(下記写真をご覧下さい)🏙️

 ここから1週間、フィルハーモニーに通う日々が始まると思うとワクワク。高層階で眺めも綺麗でした。

 

 ついに、この日の午後(3次予選のイブニングセッション)から鑑賞スタート!

 ちょうど私が空港で演奏している時に、背後のスクリーンでは David KHRIKULI さんの演奏がライブで映し出されていましたが、日程的にモーニングセッションの時間に会場に辿り着くことは不可能だったので、彼の演奏を聴けなかったのは非常に残念でした(友人から彼の3次の演奏が良かったとのメッセージがあって尚更😭)。



〜 3次予選を聴いて 〜


 会場に入り、チケットコントロールを抜けてロビーに入った瞬間、巨大なショパンのパネルを見て「またここに来られた!」と胸が高鳴りました。同時に4年前の2021年大会の記憶が蘇り、この4年間パリで音楽を学び続けられたこと、そして再びここに戻って来られたことの幸せをしみじみと噛み締めました。

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 3次予選初日のイブニングセッションから私の鑑賞がスタートした訳ですが、今回の席は5列目の中央部で、通しチケットでファイナルまで全て同じ席で聴くことが出来ました。


自分の席から
自分の席から

 着席して最初に聴くことができたのは 桑原志織 さんの演奏。彼女の1次・2次での演奏はYouTube配信で聴いていたので、会場で生演奏を聴けることをとても楽しみにしていました。彼女のショパンは自然体で豊か、そして温かみがあり、ある意味では私とは対極にいるショパンなのかもしれません。

 ただ、私にとって、最初のコンテスタントということもあり、なんとなく落ち着いて聴くことができなかったように思います。また、なぜかピアノの音色が十分に耳に入ってこない感覚があり、早くピアノを聴く耳を準備しなければ……と焦ったのを覚えています。

 続くLEE兄弟の演奏も、どこか心に響かず。特に桑原さんと同じスタンウェイを選んだ Hyuk LEE さんの音が、私の席には届きにくく感じました。前から5列目という贅沢な席で、手許もよく見えるのですが、ピアノの音が飛ぶ方向が少し違うのかもしれないと思いました。2階席で聴いたら印象が違ったかもしれません。

 一方で、シゲルカワイのピアノの音はこの席にも豊かに届き、「ピアノメーカーによってこんなにも響きが違うものか」と驚きました。後に会場入りした家族や知人も「カワイの響きが良いね」と口を揃えて言っていたので、シゲルカワイはどの席でもホール全体を包むように響いていたのかもしれません。

 叶うことなら、この会場でベヒシュタインの音も聴いてみたかった……と密かに思いました(ちなみに、YouTube配信のアーカイブではスタンウェイの響きもやはり王道らしい美しさがあり、シゲルカワイに引けを取らない印象ではありました。ピアノの上の大量のマイクが綺麗に音を拾うのでしょうが、会場で聴く実際の感覚とはかなり異なることも、ある意味では発見でした)。


 翌日の3次予選2日目ともなると、私の耳もすっかり “ショパコンモード” に🌊しかし、この日は朝から波乱が。優勝候補のひとりである Eric LU さん欠席のニュースが入り、会場がざわつきました。

 一人目の XiaoXuan LI さんのあとに予定されていたEricの演奏がキャンセルとなり、その後は1時間の休憩をはさんで、16歳の中国人少女 Tianyao LYU さん一人の演奏という、やや寂しいセッションに。観客たちは「1時間、どう過ごそうか」といった様子で会場内で談笑したり、思い思いに時間を過ごしていました。私も正直、「1時間待って一人の演奏しか聴けないのはちょっと寂しいな…...」と思っていました😓

 Tianyao LYUさん自身もこの思いがけない事態に動揺したはずです。ところが、ステージに登場した彼女はとても堂々としていました。『マズルカ』から始まり、途中で『雨だれのエチュード』を挟む構成にも胸を打たれました。私はもちろんのこと、しっかりと観客の心を掴んでいたと思います。個人的にはとりわけ、『葬送ソナタ』第3楽章の演奏に感銘を受けました。あの荘厳で重い行進を、彼女は全身で表現していたように思います。私がこの曲をこう弾きたい、と思う理想像と重なっていました。1時間待ってでも彼女の演奏を聴けて、本当に良かったと心の底から思いました。


 3次予選で特に印象的だった演奏者の一人に、 ポーランド人の Piotr PAWLAK さんがいます。それまでも素晴らしい演奏が続いていたのですが、彼が最初の一音を奏でた瞬間、「あ、私がワルシャワで聴きたかった音色はこれだ」と感じ、自然と涙が溢れました。

 実のところ、彼の1次・2次の演奏はあまりチェックできておらず、「なぜ彼がここまで勝ち進んできているのか?」と否定的な意見も小耳に挟んでいて、あまり期待はしていませんでした。けれども、ステージに上がった瞬間からただならぬオーラがあり、一音目を聴いた瞬間に完全にノックアウト。まさにこの瞬間、自分の中で “ショパン・スイッチ” が入ったような気がしました。『クラコヴィアク』も『マズルカ』も素晴らしく、ただ『ソナタ』では少しヒヤッとする瞬間もありました。

 続く Yehuda PROKOPOWICZ さんの演奏も似た傾向があり、『マズルカ』で大いに感動させられる一方、『ソナタ』では少し粗が目立ったのが惜しまれます。結果として二人ともファイナルには進めませんでしたが、私は、彼らの『幻想ポロネーズ』と『コンチェルト』を聴きたかったです。

 この日は「ワルシャワに来て本当によかった」と満ち足りた気持ちで帰宅しました。


 翌日、3次予選最終日のモーニングセッション。最初に登場した 牛田智大 さんの演奏で、私の涙腺は崩壊🫠彼の演奏を生で聴くのは初めてで、今回は1次・2次も配信をあまりチェックできていないままの “まっさらな状態” での鑑賞でした。

 小さい頃から活躍してきた牛田さんの映像は何度も目にしてきましたが、今回の彼の演奏は、まさにピアノと一体になっているようで、とにかく音楽に入り込んでいました。それでいて独りよがりではなく、聴衆を自然に引き寄せていく力がありました。彼の演奏は、私の心の深い所に刻まれ、『ソナタ』第3番が終わっても、余韻が長く残りました。


 続く Zitong WANG さんも、今回新たにファンになったピアニストの一人です。

 それまでの1次や2次でも、YouTube配信で彼女の演奏に触れるたび、その魅力にどっぷりとハマっていました。3次で初めて生で聴いた彼女の演奏は、特に後半が印象的でした。ホ長調の『ワルツ』、『華麗なる変奏』、そして『スケルツォ第1番』という斬新な構成で、それぞれが彼女の魅力を引き出し輝いていました。

 一方で、前半の『ソナタ』などではやや激しすぎる音色や、フォルテで音が割れる瞬間もあり、私の席ではシゲルカワイのピアノの低音が届きすぎる印象もありました。


 そして3次予選最終日のトリ、前日の欠場を経て登場した Eric LU さん。彼の演奏には再び涙を誘われました🥹

 ステージに現れた瞬間、周囲のお客さまが「え?さらに痩せてる……!」とざわめいたほどで、私も、会場で初めて見る彼の姿に少し不安を覚えたほどです。こんな状態で1時間の大曲プログラムを弾ききれるのか……という懸念が広がる中、彼は最初に『舟歌』を演奏しました。一音目から、まるで水が砂漠に染み渡っていくかのように心が潤っていくのを感じました。儚く繊細なメロディが胸に沁み、自然と涙がこぼれました。選曲もこのタイミングにぴったりだったと思います。

 和音の細部が欠ける瞬間もあり、決して彼にとってもパーフェクトなコンディションではないことは伝わってきます。しかしながら、むしろその “危うさ” や “儚さ” がショパンの晩年と重なり、FAZIOLIのピアノの音色とともに彼の繊細さをより際立たせていました。今ショパンの本質を体現できているのは彼かもしれないとその時感じました。『マズルカ』から『ソナタ』に至るまで、すべてが素晴らしく、終演後もしばらく呆然としてしまいました。


 話が変わりますが、今回の会場のお客さんのマナーも前回から全く改善されていなくて、私は憤りを隠せませんでした。なんと、会場にいるにも拘らず、演奏中にスマホでYouTube配信を見ている方が複数おり(!)、時には音が会場に漏れていました。ライブ配信でのコメントを見たいのかもしれませんが、本当に残念でした。さらに、演奏中の撮影やアラーム音も目立ち、周囲の聴衆の集中を妨げていました。

 次回以降は、開演前に「スマートフォンの電源をお切りください」というアナウンスがあっても良いのではないかと、現地の友人たちとも話していました。


 ちなみに、3次のモーニングセッションは朝10時から始まりますが、ワルシャワ在住の友人からおすすめのパン屋さんを教えて頂き、そこでシナモンロールとカプチーノを買い、歩きながら半分くらい味見…...😋残りの半分は会場の3階のテラス席で、というのが朝の日課になりました☕️



 3次が終わる頃までには、夫や妹と合流し、また、会場では、私の座っていた席の近くに通し券で来られている方々とも自然と仲良くなり、皆で感想を共有しながら聴くという楽しさも味わえるようになっていました。


🕊 10月17日:ショパンの命日に


 この日はショパンの命日。三次とファイナルの間の中日に当たります。

 コンクール鑑賞から少し話は逸れますが、この日一日はワルシャワをたっぷりと満喫したので、閑話休題として思い出を少し綴りたいと思います(ショパコン鑑賞録の続きは下です)。


 まずは、お昼に行ったランチが大当たりでした👏

 現地の友人曰く、このレストランは、コンクール期間中、ショパコン鑑賞のお客さんがセッションの合間の短い時間で殺到するために予約が必須で、予約もすぐに埋まってしまうとのことでした。コンクールの中日のこの日は空いていて、お客さんは隣のポーランド人2人組やフランス人4人組だけでした。彼らも美味しい!と大絶賛していました😉


 続いてショパン博物館を訪れました。

 チケット売り場の建物では、ショパンコンクール開催期間中毎日発行される日刊誌の多くが勢揃い。過去のナンバーも一部取り揃えていたので、欲しい番号はここで補充すると良いかもしれません(5年後も同じような日刊誌が発行されるのかは分かりませんが……)。この日刊誌は、会場でも無料で配布されているのですが、取り損ねがあったり、人気のコンテスタントの回の冊子はすぐに無くなってしまったりもします。

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 ショパン博物館は今回で3回目の訪問。前回の2021年には、すでにリニューアル後だったため、その時から変わり映えはしていないのですが、来るたびに自分の感じ方の変化もあるので、今回また改めてじっくり館内を見ることができたのは良かったです。

 今回は特別展も開催されていました。特別展では、パリのロマン主義時代を代表する ドラクロワ シェッフェル の作品が展示されており、パリのChaptal通りのアトリエで育まれた、彼らとショパンやジョルジュ・サンドとの交友関係が主題となっていました。ショパンを媒介にしながら、広い意味での芸術史の一端を垣間見ることができ、非常に見応えがありました(なお、特別展の展示品の大半はパリのロマン主義博物館Musée de la vie romantiqueから借用されたもので、普段はパリでも鑑賞可能です)🎨


 その後は、スタインウェイやカワイのサロンを訪れ、練習室の貸出の可否を尋ねたのですが、コンクール期間中のため満室😅しかし、偶然にもファイナリストの方々に遭遇し、大興奮!それだけでも訪れた甲斐がありました✨


 その後ショパンコンクール公式ロゴの入ったマカロンが売っているという噂のカフェ A.Blikle へ。マカロンは、入り口のショーケースにすぐに発見✨他にもすごく可愛くて美味しそうなケーキが沢山あり、せっかくなので真っ赤な薔薇のケーキにマカロンをトッピングして頂きました🌹🤍💙

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 カフェを出てから、旧市街に向かう道中、ショパンの心臓の眠る聖十字教会に立ち寄りました。夜のショパン追悼ミサに備えて準備が着々と進められ、すでに場所取りをして座っている人もちらほら。


 今年はウクライナのピアニスト、ヴァディム・ホロデンコ さんによる、ショパンの時代のフォルテピアノを使用したコンサートが開催されるとのことでした。この追悼コンサートはすごく魅力的でしたが、夜はゆっくりディナーをしようと前もってレストランを予約していたため、まだ人の少ない教会で、静かな祈りの時間を過ごしました。


 ちなみに、この教会のあたり一帯に映画の撮影用のロケのセットが組まれており、昔のポーランドの街並みが再現されていました。ついつい写真を沢山撮ってしまいました🤩


 旧市街に着く頃には日が暮れてきていましたが、この日は午後から天気も良く、淡い色に包まれた夕暮れの旧市街も一層美しかったです。


 この日のディナーは少しだけ特別に。住宅街の中にひっそりと佇む、別荘のようなレストランのWilla Biała 🍽️内装もとても素敵で、思わず驚くような演出とともに食事を楽しむことができました✨



 

〜本選(ファイナル)を聴いて〜


 さて、ショパコンに戻ります。

 ファイナルともなると、会場のお客さんのボルテージも自然と上がっているように感じられます。お召し物もこれまでのラウンドより正装の方が多く、雰囲気からして特別な空気に包まれています。

 トップバッターは Tianyou LI さん。実は前日、スタインウェイサロンで偶然お会いし、「応援しています!」と声を掛けたところ、笑顔で写真にも応じてくださいました。そんな彼がステージに上がると、思わず「頑張れ〜🥹!」と体に力が入りました📣

 トップバッターで、オーケストラもまだ少し慣れない中での演奏だったと思いますが、本当に素晴らしかったです!pp(ピアニッシモ)の音色もホールの隅々まで響き渡る一方、ff (フォルテッシモ)も輝かしい音色を奏でていました。彼の『コンチェルト』の演奏で個人的に感動した瞬間は第3楽章のRondo-Vivaceの冒頭です。誰よりも煌びやかでエネルギッシュな入りにはゾクっとしました。そのまま勢いは止まることなく最後まで楽しく聴くことができました。

 そしてその夜、なんと夕食をとろうと入ったレストランで、ファイナルを終えたばかりの彼に再び遭遇するという奇跡🤣


 今回、ファイナルのステージで一番涙したのは、16歳の Tianyao LYU さんの演奏でした。他のファイナリストの『コンチェルト』では、「今のこの瞬間グッときたな〜」とか「この表現面白い!」と、部分的にハッとすることは多々あったのですが、彼女の『コンチェルト』は音色も歌い回しもすべてが魅力的で、45分間ずっと感動し続けました。指揮者との掛け合いも自然で、息が合っていたのが印象的でした。これは前方中央の席で聴けたからこそ感じられたのかもしれません。

 私の “彼女を見る目” は間違っていなかったようで、審査員からも高く評価され、コンチェルト賞を受賞しました。個人的な所感では、『幻想ポロネーズ』の最後の音を割と短めに終え、なんとなく次の『コンチェルト』を予感させるような演奏に感じました。実際、彼女は、後のインタビューで『幻想ポロネーズ』の終わりと『コンチェルト1番』の始まりについて触れており、この2曲を続けて演奏するときのキャラクターの変化のスイッチの切り替えの大切さについて語っておりました。彼女自身も2曲の “間” にあるものを表現しようとし、聴衆である私もそれを感じ取ったということになります。彼女の狙いはうまくいったのだと思います。

 

 さて、彼女の演奏を聴いて感動のあまり「もうこれ以上の『コンチェルト』は聴けないかも……まだ初日なのに……」と思っていたのですが、その直後に登場した Vincent ONG さんに度肝を抜かれました。

 3次でも印象的でしたが、ファイナルではさらに磨きがかかっており、『幻想ポロネーズ』『コンチェルト第1番』のどちらも圧巻。16歳の少女とはまた違う、筆舌に尽くし難い感動がありました。『幻想ポロネーズ』で個人的に特に素晴らしいと感じた瞬間は、幻想的な序奏(Introduction)が終わり、ポロネーズのリズムのオクターブが現れたのち、主題であるメロディがmezza voce(静かに抑えた声で)という指示のもと奏でられる部分です。ここを楽譜の指示通り、本当に小さな音で演奏するピアニストの演奏を実はあまり聞いたことがなかったのですが、彼の音色はしっかりと抑えられていて、うちに秘めたポロネーズを美しく表現できているように思いました。少々地味でスルーされがちな細かい部分でも素敵な表現が沢山散りばめられていました。

 また、前半2番手の Eric LU さんの演奏も大変素晴らしく、3次から彼の音色と世界観の虜になっていた私にとっては、ファイナルでも期待通りの演奏でした。ただこの日は後半の二人のインパクトが強すぎて、少し記憶が霞んでしまったほどです🙇‍♀️


 ファイナル2日目で印象的だった演奏者の一人に William YANG さんがいます。

 細部まで丁寧に彩られた『コンチェルト』で、pp(ピアニッシモ)も緻密で明瞭。とても楽しく聴くことができました。オーケストラとのバランスで「小さすぎ」「少し地味」という意見もあったようですが、私の席からは、むしろ演奏は立体的で明瞭に響いているように感じられ、とても素敵に聴こえました。


 そしてもっとも印象的であった演奏は Piotr ALEXEWICZ さん。

 正直、私は彼のファイナルにはあまり期待していませんでした。と言いますのも、3次の演奏では全体的に少し荒く聴こえ、低音が響きすぎて音が割れて聴こえるような印象もありました(シゲルカワイの煌びやかな音色は魅力的でしたが、同じくシゲルカワイを使用していた Zitong WANG さんの演奏でもこれと近いことを感じました)。ただ、別の席で3次を聴いていた家族や知人からは「音色も豊かで良かった」「ファイナル進出も納得」との声もあり、意見が真っ二つに分かれていたのが印象的でした。個人的にはポーランド人ならば Piotr PAWLAK さんや Yehuda PROKOPOWICZ さんがファイナルへ進むと思っていたので、Piotr ALEXEWICZ さんがファイナリストに選出されたときは意外な気持ちでした。今回のポーランド人コンテスタント勢は、聴く場所やラウンドによって印象が驚くほど変わり、本当に興味深かったです。

 そんな経緯もあって、あまり期待せずに聴いたファイナルでしたが、彼の『幻想ポロネーズ』は、まさに私がこの曲で理想としていた形に一番近かったように思います。他のコンテスタントたちも緻密で多彩な音色に幻想的な空気感を纏わせて表現していましたが、彼の演奏にはポロネーズらしい躍動感とダイナミックさ、そして心に直接響く力がありました。もちろん細いところで惜しい!と感じたり、緊張から出たような揺れ動きはありましたが、それを差し引いたとしても感動するに十分な素晴らしい演奏でした。

 私の個人的な感想では、正直、3次で下位に近い印象だったのが、ファイナルでは一気にベスト3に入るほど印象が激変しました🤣


 『幻想ポロネーズ』という一点で見ると、Vincent ONG さんと Piotr ALEXEWICZ さんの演奏が特に好みでした🫶

 今回のファイナルで共通課題として初めて取り入れられたこの曲、多くの出場者が苦戦していたようにも見受けられました。中には、思うように曲に入り込めず、そのまま『コンチェルト』に影響しているようなケースもあり、演奏者が、昨年まではなかった難しさや困難に直面しているようにも見えました。改めて、『幻想ポロネーズ』の奥深さと難しさを目の当たりにすることになりました。


 全ての演奏が終わると、真っ先にコンテスタントの皆さんへの賞賛の気持ちが湧きましたが、それと同時に、夢のような大会鑑賞の日々が終わり、毎日のように顔を合わせていたお隣の方々ともこれでお別れなのかと思うと少し寂しくもありました。

 隣の日本人ご夫妻は、私があまりにも感情移入して聴いているものだから🥹、心配して飴をくださったり、優しく声を掛けてくださいました。もう片隣のポーランド人の方は、鉛筆片手にメモを取りながら指揮するように聴いておられました✍️この素晴らしい舞台を、何日も同じ空間で、周囲のお客様とも一体となって聴けたことに、改めて特別な感動を覚えました。このような素晴らしい空間に、また戻って来られることを願うばかりです。



🍁番外編:ショパンを感じるワルシャワの日々


 2021年のショパンコンクールの際にも訪れたワルシャワの公園の数々。

 今回も紅葉の見頃を迎えていて、その美しさには思わずため息が漏れ出てしまうほど🍁

 一週間ほどのワルシャワ滞在だったので、平日と日曜日のどちらも訪れ、それぞれ違った表情を楽しむことができました。


 平日の公園はとても静かで、ショパンの音楽を聴きながら気の向くままに散歩するのが最高の贅沢。木々の間を抜ける風や、足元で揺れる落ち葉の音に耳を澄ませていると、ゆっくりと流れる時間のなかに溶け込んでいくような錯覚に陥ります。


 今回も、前回に続いてワジェンキ公園でリスを探して歩きました🐿️笑

 「今回は近くまで来てくれるリスがいるかな?」と期待しながら愛嬌のある子を探していたところ、突然、頭上から立派な栗が落ちてきてびっくり!😳(当たったらちょっと危なかったです😂)その瞬間、「この栗を使えばリスと仲良くなれるかもよ……?」という神様のお告げが聞こえた気がして🤭栗を片手にもう一度リスに近づいてみたのですが……?!続きはぜひ動画でご覧ください🤣笑


 日曜日の公園は一転してとても賑やか。

 家族連れや犬の散歩をする人たちでいっぱいで、路上パフォーマンスもあちこちで行われていました🎷特にサックスのストリート演奏は、まるでCDのような音色で本当に素晴らしかったです👏


 基本的には、コンクールを聴くのがメインでしたが、少し遠方に足を伸ばすこともできました。特に印象に残っているのが、ショパンの生家を訪れたことです。

 行きの電車が大幅に遅れたり、現金しか使えないバスの移動に苦労したりと(タクシーは全く捕まりませんでした)、道のりはなかなか大変でしたが、それでも訪れて本当によかったと思えるほど、ショパンを間近に感じられる体験でした。


 チケット売り場のロビーにはピアノとショパンの肖像画が飾られ、そこから広い庭園を抜けて生家へと向かいます。

 木々の影に設置されたスピーカーからショパンの音楽が流れてきて、歩きながら自然と気分はショパン・モードに🎹

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 生家はこぢんまりとしていて、あっという間に回れてしまうほどの大きさです。

 ショパンが産声を上げた部屋には木組みの天井から柔らかな光が差し込んでいました。静寂の中にショパンの魂が今も息づいているような、不思議で温かい感覚に包まれました。

 サロンの間にはスタインウェイのピアノが置かれ、ここでは定期的にショパン協会主催のコンサートが行われています。私は、今年5月にGARCIA GARCIA さんがこの場所で演奏した『幻想ポロネーズ』のオンライン公演を観て感動し、演奏の参考にもさせていただいていました。

 曲の途中で映し出されたお庭の自然と音楽の調和がとても印象的で、「ショパンの音楽はいつも自然と共にある」ということを、今回訪れて改めて感じました。


 また、お家の裏手では蔦の葉が緑から赤へと美しく色づいていて、そこにも繊細な美しさを感じました。庭の奥にあるショパン像も見て、「そろそろ帰ろうかな」と思ったその瞬間、スピーカーから偶然にも『幻想ポロネーズ』が流れてきて、驚きと嬉しさで胸がいっぱいになりました🥹🎶


 ちなみに、今回立ち寄ったワルシャワのカフェはどこも本当に素敵で、毎回うっとりしてしまいました☕️🤍

 どこも温かい雰囲気で、カフェはそれぞれ旅の疲れを癒してくれる大切なひとときを提供してくれました😌



✈️帰国前の空港ピアノリベンジ!


 ファイナルが終わり、深夜の結果発表を経て、翌日の夜にはいよいよパリへの帰路につくフライトの日となりました😢

 ……と、その前に!大事なミッションがひとつ残っています。そう、空港ピアノでのリベンジです😂

 前述の通り、この1週間は練習室がすべて埋まっており、一度もピアノに触れることができませんでした。音楽を聴く耳だけは1週間前より肥えているかもしれませんが、指と身体はすっかり訛ってしまい、正直この状態で弾いてもまた恥をかくだけかも……と、挑むかどうか最後まで悩んでいました😅


 そんな中、少し早めに空港に到着すると、なんとYAMAHAのグランドピアノのほかに、入り口付近に電子ピアノが設置されているではありませんか!まるで「ここでしっかりウォーミングアップしてから挑みなさい」と言われているかのように……😂

 その電子ピアノで20分ほど指慣らしをしてから、いざリベンジ本番へ——!

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 ピアノと対面すると一つの発見が!到着時に凹んでいたSi♭の鍵盤はしっかり直っており、調律も入っているようで音の響きも良くなっていました✨一週間ピアノを触っていなかったけれども、指も意外と動いてくれてひと安心🤣

 ショパンコンクール出場者の中には、演奏できなかったプログラムのすべてを帰国前にこの空港ピアノで弾き切ったという話もあるそうで、まさに世界屈指のハイレベルなストリートピアノといっても過言ではありません。YAMAHAの立派なグランドピアノですし、今回のように不具合があってもすぐに対応されているあたり、さすがショパンコンクールの国ポーランド👏(ちなみにフランスなら間違いなく放置でしょう……🇫🇷笑)


 演奏の様子は、YouTubeショートにも載せていますので、お時間のある方はご笑覧ください🫣✨


 かくして、無事にパリの帰路へと着くのでした...✈️🇫🇷


 長文となってしまいましたが、最後まで読んで下さりありがとうございました。

 この10月は【Chopin et moi】と題し、3つの記事を掲載いたしましたが、お楽しみいただけましたか?

 第1弾では、2021年のショパンコンクールのレポート、第2弾ではショパンと私のこれまでの歩みと『幻想ポロネーズ』への想いをお届けし、今回の第3弾でつい一週間前まで開催されていた2025年のショパンコンクールのレポートをお届けさせて頂きました。

 過去の記事をまだお読みでない方は是非ご覧頂けると嬉しいです。10月はどっぷりショパンに浸らせていただきましたが、11月からはまたフランス音楽へ🎶

 今週末には、あの名曲をアップ予定ですので、ぜひお楽しみに!🇫🇷

 
 
 

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