Chopin et moi ② ~そして幻想ポロネーズへ~
- Marie

- 10月16日
- 読了時間: 12分
更新日:10月30日
本日10月17日はショパンの命日。
ポーランド、ワルシャワで開催中の第19回ショパン国際ピアノコンクールも残すところファイナルのみとなり、いよいよクライマックスを迎えます。前ブログで告示したように、私は今週からワルシャワ入りをし、3次予選を聴き終えたところで、明日から始まるファイナルのステージ鑑賞に向けて、これ以上ないくらい気持ちが昂っています。
この高揚感には、一つの大きな理由があります。それは、今年のコンクールファイナルでは『コンチェルト』に加えて『幻想ポロネーズ』を演奏するというルールが追加されたことです。この話を知ったとき、「もしいまこの曲を深く学んだとしたら、世界の若手トップのショパニストの演奏を聴くことで、果てしないスケールのこの曲の真髄に自分なりに少しでも迫ることができるのではないか」と考えました。そのような理由もあって、この6月までの長い学生生活の集大成として最後の一年、時間をかけて学ぼうと決めたのが、まさにこのショパンの『幻想ポロネーズ Op.61』でした。
自分が納得し、皆さまに聴いて頂けるような『幻想ポロネーズ』を作り上げるために、フランス人のレッスンはもちろんですが、彼らの意見だけでは何かが不足していると感じていたので、普段の自分の学びのコミュニティから一歩外へ足を踏み出し、イタリア人やロシア人、二人のポーランド人のレッスンも受けました。パリだけでなく、他の国でも演奏する機会を頂きながら、最終的に自分が描きたい『幻想ポロネーズ』はどのようなものかを模索し、辿り着いた答えが本日Youtubeにアップロードした演奏となります。
きっと明日から始まる、ファイナリストの演奏に圧倒され、自分の演奏の未熟さに気の遠くなる想いがするはずです。ひょっとしたら、彼らの演奏を会場で聴いて大いにインスピレーションを受けることで、もっと成長した『幻想ポロネーズ』を皆さまにお届けすることもできるかもしれません。でも、それはまたいつかの演奏の機会にとっておくとして🤭、まずは、時間をかけて向き合ってきたこの曲を、普段応援して下さる皆さまが一度でも聴いて下されば、それに勝る喜びはないと思っております。
私のショパンやこの曲に対しての想いといった点については、下記に綴って参ります。是非、最後までお付き合い頂ければ嬉しく思います😌
ちなみに先日、私の10歳の頃の『ポロネーズ』の演奏を公開しましたが、これには理由があります。それは、地元の発表会で精一杯ショパンの『ポロネーズ』を演奏する一人の女の子が、時を経てフランスに渡り、様々な出会いや葛藤を経て、一体どんな演奏をするようになったのかを見比べて頂けたら、という想いがあったからです。
幼少期からショパンとともに
さて、私は子どもの頃から「歌心がある」とよく言われていました。自分で言うのも憚られますが、幼いながらも演奏には大人顔負けの表現力が感じられ、フレーズの歌い方の特徴から「マリエ節」があると言われていました。その「マリエ節」がよく表れているのは、9歳の時の『新練習曲1番』と『ノクターン嬰ハ短調』の演奏です。数年前にYouTubeにアップロードしたこの動画、自分で聴いてみても、1曲目の波のうねりのような音楽の表現も自然と出来ており、2曲目のノクターンの右手もよく歌われていています。当時の先生が導いて下さったのも大きいですが、自分から湧き出る確かな音楽、歌心があったのだと思います。
私の幼少期のショパンとの取り組みの中で最も華やいでいた時期は、10歳で『ポロネーズ嬰ト短調遺作』を演奏したときでした(先日アップロードした動画の曲です)。当時はまだ新しいコンクールだった ショパンコンクール in Asia の北海道大会と全国大会で金賞、アジア大会で銅賞を受賞しました。
この頃から私は、ショパンを演奏するときだけ特別な “第六感” が働いているような感覚を覚えました。魂をすべて音に込め、音楽と一体になる瞬間。その感覚を味わえたときはこの上ない快感でしたが、曲が充分に自分のものになっていないときや、集中力やコンディションによってはその “ゾーン” に入れず、本番では「どうなるか分からない」という恐怖も子どもながらに感じていました。
思春期の壁
しかしながら、その後の音楽人生は決して平坦な道のりということはありませんでした。本格的にショパンを学ぼうとすると、『マズルカ』や多くの『ポロネーズ』、中高生ともなれば『エチュード』や『スケルツォ』などの大曲にも取り組む必要が出てきます。テクニック的にも決して容易ではなく、先ほどの「マリエ節」だけでは到底太刀打ちできない壁にぶつかりました。加えて、本番での緊張やプレッシャーもますます強く感じるようになり、以前のようにショパンの音楽と一体となり、自分の全てを込められているという感覚を見失うことも多くなっていきました。
ただ、『エチュード Op.25-1(エオリアンハープ)』に出逢ったときだけは特別でした。真珠のような音色とタッチが自分の響きと自然に重なり、持ち味を素直に音楽に反映できたと感じました(このことは以前の記事「Le jeu perlé et le toucher léger〜風にきらめく真珠のヴェール」で詳しく書いています)。
ショパンの『スケルツォ4番』と音大受験
ショパンと自分自身の距離をより強く意識するようになった大きなきっかけは、音楽大学受験曲で『スケルツォ4番』を演奏したときでした。音大受験は人生の中でも指折りの大事な本番です。さまざまな課題曲を演奏しなければなりませんが、何よりも審査の要となるのは、10分ほどの自由曲です。ここでの選曲はしたがって、結果に大きく影響してきます。
当時の先生から提案して頂いた曲は『スケルツォ4番』。幼少期からショパンに親しんでおり、自分の音色にも合っているのではないかという理由で迷いなくこの曲を選びました。約1年かけてじっくりと向き合いましたが、結果として、受験は自分の目指す課程には合格することが叶いませんでした(他の課程で入学しました)。振り返ってみれば、この曲を演奏すること自体、自分にとって大きなプレッシャーとなっていたように思います。受験に向けての緊張感を意識した練習をする場や演奏の機会を多く頂きましたが、弾くたびに波が大きく、実は自分に合っているようで合っていなかった曲だったのだろうと今は感じています。特に試験という大事な場で弾くべき曲ではなかったのかもしれません。
そして、この音大受験のタイミングを境に、ショパンという作曲家から少しずつ距離を置くようになりました。
ショパンと距離を置いた音大時代
東京音大ではダイナミックな演奏が求められることが多く、また、自分の弱みであるff(フォルテッシモ)の音色に深みを持たせるために(※以前のブログ「Le jeu perlé et le toucher léger」で詳述しております)、大学時代はベートーヴェン、リスト、シューマン、ブラームス、ラフマニノフなどを中心に学び、ショパンの作品は一曲も演奏しませんでした。
地元を離れてから、北海道には、実はショパンを好み、積極的に演奏する「道民性」(?)のようなものはあるのではないかと感じるようになりました。実際、北海道には、ショパン学生ピアノコンクールがあったりと独自のショパン愛好文化があります。東京音大に来てからは、たまたまだと思いますが周りにショパンを弾く人もおらず、また、「もっと様々な作曲家を幅広く学ばなければ」と考えてショパン以外の色々な作品に取り組んでいました。ショパンを聴いてもどこか心にグッとくるものを感じられなくなり、自ら好んで他の作曲家に夢中になっていました。
ショパンの『幻想曲(Fantaisie Op.49)』とエリック・ベルショ先生との出会い、また故ムニエ先生との心の対話
その後フランスに渡り、留学生活をスタート。最初に師事したのはショパンを得意とするエリック・ベルショ先生でした。
音大時代とは違い、パリでは周囲にショパンを弾く人が多く、フランスではショパンの曲を何か形にしたいという想いが再び沸いてきました。そしてエコール・ノルマル音楽院の年度末の試験曲のプログラムに『幻想曲 op.49』を選択。再び大事な舞台でショパンと相対することになりました。
譜読みから丁寧に積み上げ、毎回のレッスンを録画。ピアノ講師の仕事もまだ始めていなかったので、生活の全てを練習に捧げました。
この頃から、ベルショ先生の師でもあったムニエ先生の存在が、私にとって大きくなっていきます。ムニエ先生は2006年にお亡くなりになっているため、直接お会いすることは叶いませんでしたが、ベルショ先生をはじめ、彼女の門下生である著名なピアニストや、今もパリで親しくしている大先輩の友人たちから、ムニエ先生の解釈や歌い方について細かく教わることができました。さらに、彼女のCD演奏もたくさん聴き、まるで彼女の足跡を辿るかのような日々を過ごしました。エコール・ノルマル音楽院の年度末の試験で『幻想曲』を演奏した瞬間には、まるでムニエ先生と心で対話しているかのような感覚に陥るほどでした。
フランスで師事した全ての先生方(ベルショ先生、パブロス先生、メロン先生、パラスキヴェスコ先生)は皆、ムニエ先生とのつながりを持っています。そうした意味では、私の音楽はある意味ではムニエ先生の「系譜」の中にあり、私もムニエ先生の音楽を受け継ぎたい(少し烏滸がましい表現かもしれませんが)と思うようになりました。指導者としては、ムニエ先生から連綿と受け継がれる音楽性を生徒さまにも伝えていけたらと想っております。
実はこの試験の結果は不合格でしたが、魂を込めて曲に入り込めたことへの満足感は大きく、『スケルツォ4番』のときとはまったく違う気持ちでした。ここから再びショパンに一層本格的に向き合いたいと思うようになりました。
ショパンの難しさと魅力
私は、試験やコンクールなど審査が入る場面では、ドビュッシーやラヴェルを演奏すると、それなりに評価を得ることができ、手応えを感じることが多いのですが、ショパンを弾くとなると前述のように中々上手くはいかず、また、仕上げに膨大な時間が必要で、ときに苦しさすら伴います。たとえば、何かコンサートのようなステージで、ショパンとドビュッシーを弾くとなれば、練習の時間配分も、ショパンとドビュッシーでは5:1くらい。直前の練習もショパンにほぼ全ての時間を費やしても、本番の安定感は圧倒的にドビュッシーのほうがある。そういう具合です。
安定感がないように感じるのは、ショパンの曲は人の内面に深く入り込み、聴き手によって受け取り方に大きな差が出やすいことが一因であると思います。審査の場では、これが不利に働くことも少なくありません(ショパン国際コンクールを見ていてもそう感じる場面は多々あります)。それでもショパンは特別。繊細で壊れやすいガラスの破片のように感じます。だからこそ(私だけでなく、多くのピアニストが)挑み続けたい作曲家なのだと思います。
特別な想いが伝わったのか、ショパンは生徒さまにとっても特別な作曲家へ
最近では、私のレッスンと並行して、複数の生徒さまが皆それぞれ異なる有名なピアニストの先生方のレッスンを受講しているのですが、先生方が口を揃えて、私の生徒さまたちがmusicalité(音楽性)や表現力に長けているとよくお褒めくださいます。
また、私のようにショパンを特別に大切に思いながら、同時に幅広くさまざまな作曲家を学ぶ生徒さまが多くいらっしゃいます。指導者としては、発表会やコンクールの曲選びの際、出来るだけ作曲家に偏りなく、多くの候補を挙げるようにしています。特に邦人作曲家の曲は教育面でも非常に魅力的で、積極的に取り入れています。それでも、なぜか多くのお子さまがショパンを選択し、毎年発表会では自然とショパンの曲が多くなってしまいます😅お子さまたちの心まで魅了するショパンは、やはり特別な存在であると改めて感じるシーンは多いです。
そういうわけで、生徒さまたちは、今回のショパン国際コンクールの話題でも大いに盛り上がっています。指導者である私が、実際に会場で世界トップレベルの演奏を聴くことは、現場で感じた様々な解釈を噛み砕いて生徒さまに伝えていく、そういう教育的効果があると信じております。生徒さまには、10月のレッスンスケジュールの調整にご配慮頂くことになってしまうことに、改めてお詫び申し上げます。同時に、ご理解を下さることに改めて感謝申し上げます。その分、沢山の現地で学んだことをパリに持ち帰り、皆さまに伝えていきたいと思っております。
生徒さまにとっては、自分の先生という身近な存在がショパンコンクールのファイナルという雲の上のようなステージへの架け橋となり(お子さま達はライブ配信での先生探しも楽しみにしているようです🤣)、少しでもショパンコンクールを身近に感じ、学ぶ耳を持って鑑賞して下さればこれ以上に喜ばしいことはございません。
そして幻想ポロネーズへ
パリに来てからショパンの『幻想曲 Op.49』に加え、『舟歌』や『バラード第4番』、『スケルツォ第3番』などにも取り組み、自分の演奏も少しずつ成熟してきているのを実感します。前述のように、2024年の秋、ショパンコンクールのファイナルの課題曲に『幻想ポロネーズ』が加わることを知り、この作品を深く学ぶ決意をしました。
実は、ヨーロッパの先生方の指導を受ける中だけでなく、私が自分の生徒さま方への指導の準備をする中でも学びはあります。お子供さまたちが学ぶ曲は、『マズルカ』や『ワルツ』、『ポロネーズ』などのショパンの初期の頃の作品が主になりますが、これらの曲の準備作業は、改めて楽譜を研究する機会になりますし、どの出版社のバージョンを使うかに至るまで検討し直すことにもなります。生徒さまのことであるため、自分のこと以上に慎重になる分、改めてショパンの楽譜や時代背景に真摯に向き合うことができました。
パリでの学生生活や指導者としての生活を経て、ようやく、ずっと温め続けてきた『幻想ポロネーズ』を、自分に対して弾かせてあげてもいいかなと思えるまでに至りました。これは私にとって「集大成」であると同時に、ここから一歩を踏み出す新たなスタート地点でもあります。
最後に
長くなりましたが、そんな幼少期からこれまで沢山の経験と想いが詰まった私なりのショパンの『幻想ポロネーズ』を是非ご覧いただけたら幸いです。正直、明日から一流のショパニストたちの『幻ポロ』が一挙に集うというこのタイミングでのアップロードは大変恐れ多く、緊張もします......🫨
生徒さまたちは、このレッスンお休みの期間、春先に向けての発表会やコンクールの選曲もして頂きながら、先生の奏でる『幻想ポロネーズ』、ファイナリストの『幻想ポロネーズ』に『コンチェルト』の鑑賞とどっぷりショパンに染まってくれたら嬉しいなと思います🍂🎹休み明けの最初のレッスンでは、私からのショパンコンクールお土産もお楽しみに🤍
【Chopin et Moi 】最終回の第三弾は、第19回ショパンコンクール大会のレポートです。
明日からのファイナル、全身全霊で聴講して参ります。そして、なるべく早くレポートを皆さまにお届けできるようにと思っております。是非ブログの方もチェックしていただければ嬉しいです🙏







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