Le jeu perlé et le toucher léger 〜風にきらめく真珠のヴェール〜
- Marie

- 9月5日
- 読了時間: 6分
あっという間に9月に入りフランスでは新学期。日本はまだまだ残暑厳しいことと思いますが、フランスはもう秋の空気が漂い、爽やかな風が吹くようになってきました。こんな爽やかな季節にぴったりの曲、ショパンの練習曲Op.10-1《エオリアンハープ》をアップロード致しました。そしてこの動画は、私にとって挑戦でもあり少し特別な動画となっております。
その訳はご覧いただくとお分かりになるかと思いますので、是非まずは一度ご視聴いただいてから、詳細が気になる方は、下記をお読み下さい😉 (画像をクリックでご視聴頂けます!)
〜 幼少期と「小さな音」の世界 〜
子どもの頃から、私は pp(ピアニッシモ)の音色とタッチに強いこだわりを持っていました。体格が細かったこともあり、自然に出る響きは繊細で、大きな音を出すのは得意ではありませんでした。そんな私に先生は「小さな音の中でも多彩な音色を生み出す力」を育ててくださり、8〜9歳頃には”ハーフタッチ”(le toucher léger) や ”真珠のようなタッチ”(le jeu perlé) を身につけていました。のちほどこれらのタッチについては詳しく説明させて頂きます。
当時、周囲の上手な子供達の演奏は、もっとパワフルで勢いがあり、劣等感を抱くこともありましたが、先生や周りの方々が「それこそが強み、聴く人を惹きつける武器になる」と励ましてくれたおかげで、今につながる基盤になっています。
〜 大学時代と「強い音」への挑戦 〜
高校〜音大では幅広いレパートリーを学ぶ必要があり、試験でもダイナミックな ff(フォルテッシモ) を要求される作品を弾くことになりました。そこで「強い音を出すと硬くなる」「アクセントが付きすぎる」など、さまざまな壁に直面しました。華やかで輝かしい ff(フォルテッシモ)は次第に磨かれましたが、重厚な響きは自分の中で大きな課題であり続けました。
この課題を克服するため、大学ではベートーヴェン、シューマン、ブラームス、リスト、さらにはロシアものを中心に学習し、唯一のフランス作品は卒業試験のラヴェルの《ラ・ヴァルス》だけで、ドビュッシーやショパンには一切触れませんでした。なんとなく自分の音楽に蓋をしているような4年間ではありましたが、音楽的解釈や表現を深めながらこれらの作曲家を取り組むうちに、 pp(ピアニッシモ)から ff(フォルテッシモ)までの様々な音色の幅は広がり、何より音楽の深みに魅せられ、演奏できる曲のレパートリーも格段に増えたことは言うまでもありません。
ちなみに「自分の音色はフランス音楽に自然に馴染む」と実感したのは、フランスに渡ってからのことです。
〜 技法について 〜
ところで、le jeu perléとle toucher légerとは何のことを言うのでしょうか?
Le jeu perlé(ル・ジュ・ペルレ)とは、フランス語で「真珠のような奏法」。一音一音が丸く均等に並び、真珠のネックレスのようにきらめくタッチのことを言います。モーツァルトやショパンの技巧的パッセージで必要になる奏法で、バッハを演奏している時にも近いタッチを感じることがあります。
Le toucher léger(ハーフタッチ)は、鍵盤の底まで押し切らず、表面にそっと触れるように出すタッチのことです。柔らかく繊細で、特にpp(ピアニッシモ)での表現に適しており、ドビュッシーやラヴェルなどフランスもので多く生きてきます。もちろん、他の作曲家の作品でも生きてくる場面も沢山あります。ほんの一例を挙げるとすれば、シューマンの作品で、心のうちに隠れる囁きのような旋律を奏でる場面や幻想的なシーンを奏でる場面、リストの作品で 、pp で始まる祈りのような部分を弾く場合や空気の様な音色を作る時、ブラームスの作品でも、厚みのある和音の中で柔らかく沈ませる必要がある部分などです。
どちらも共通しているのは 「軽やかで透明感のある音」、違いは、感覚的な表現になってしまいますが、le jeu perlé が「粒の輝き」、ハーフタッチが「柔らかさと空気感」であることでしょうか。
ショパンの《ノクターン》の右手の細やかなパッセージや、ドビュッシー《アラベスク第1番》(こちらは演奏をYouTubeにアップしています)などには真珠のような粒立ちのきらめきと、柔らかく繊細な色合いと両方のニュアンスが自然に共存しているように思います。
また、今回の《エオリアンハープ》も、まるで真珠のように一音一音均等に粒立ちの良い音色を追求していくことが、音の流れ(レガート感や風のような動き)を出すことと共に重要になってきます。和声の変化に合わせて色彩の移り変わりをつける必要もあり、le jeu perlé を基盤としながら、ハーフタッチ的な柔らかさで色彩を重ねる曲であると思います。「真珠の連なり」というより「風にきらめく真珠のヴェール」をイメージすると、両方のニュアンスが自然に出せるのではないかと感じています。今回のYoutubeでの映像は、この曲が持つ私なりの世界観を音色だけではなく視覚的にも表現してみました。
〜 Le jeu perléの私なりの練習法まとめ 〜
参考になる方もいるかと思いますので、以下、私なりの練習方法をまとめてみます。
① 指先スタッカート
• 小さな音で「指先だけのスタッカート」 を練習
* 手首や腕を使わず、第一・第二関節を意識
* 4・5の指が小さくならないよう特に注意
② アクセント移動
• エオリアンハープのような連続する6連符の場合、1個目の音→ 2個目 → 3個目… →6個目とアクセント位置をずらして練習
*指の独立と均一性が鍛えられる
③ リズム変奏
• 「タッカ」「カレー」のようなリズム練習
*アクセントを16分音符側に置く
* 頭も使うので、より効果的に指に刺激を与えられる
これらは pp の曲だけでなく、f で細かい音を均一に出すときや連続する和音やオクターブの曲にも役立ちます。他の多くのショパンのエチュード(Op. 10-1, 2, 4, 5, 7, 8, 10, 12 Op. 25-2, 5, 6, 8, 10, 12...)にも効果的です。
また、ハーフタッチを磨くコツとして、上記の練習で指を鍛えたうえで、今度は腕や手首の力を抜き、余分な重さをかけずに軽く触れることで、ハーフタッチ独特の色彩感が生まれます。
〜 お子様にはいつから教えるのが適切か 〜
繊細なタッチや音量コントロールをお子さまにどの段階で教えるかは、教育方針や生徒の発達によって意見が分かれるところです。
幼い子どもに「弱く=力を抜く」と教えてしまうと、①音が不安定になる、② 手の形が崩れやすくなる、③基礎的な打鍵力が育たないといったリスクがあります。その結果、後々フォルテや響きのある音を出しにくくなる可能性もあります。一方で、ある程度基礎ができてきた段階で「繊細な音色の引き出し」を持てることは、大きな表現力につながります。
私自身の経験からも、この繊細さは演奏家の「個性」に直結するものだと思います。だからこそ、生徒さんには基礎とバランスを取りながら、最適なタイミングで伝えていきたいと思っています。
〜 最後に 〜
今回の記事のカバー写真(YouTube《エオリアンハープ》のサムネイルにも使用)は、お察しの方も多いと思うのですが、私のウェディングフォトの一枚です👰。ドレス選びにはかなり迷いましたが、ヴェールだけは迷わずパールのデザインを選びました。おそらく無意識のうちに、真珠=私の音楽、そして人生を象徴するものとして手に取っていたのだと思います。
ショパンの《エオリアンハープ》の演奏動画は世の中にたくさん存在しますが、1880年製ベヒシュタインとパールのヴェールの組み合わせは唯一無二。私にとって特別な映像です🫶
この動画が、たくさんの方に届きますことを願っております🤍







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